NO.5 日本の自費出版の歴史
NO.1 はじめに
NO.2 自費出版とは
NO.3 自費出版の魅力
NO.4 日本の自費出版の姿
NO.5 日本の自費出版の歴史 (この下の記事です)
NO.5 日本の自費出版の歴史
わが国における自費出版の歴史
前項「NO.4 日本の自費出版の姿」では、どんなジャンルの自費出版本が多いかとか年代構成はどうかといった、我が国の自費出版の姿について見てきましたが、本項ではわが国における自費出版の歴史を概観してみたいと思います。
■ 明治時代
明治時代に出版された北村透谷の「蓬莱曲」(1891年)、島崎藤村の「破戒」(1906年)、宮沢賢治の「春と修羅」(1924年)などの名作が自費出版だったことは広く知られていますが、私たちが、現在、「自費出版」と呼んでいる出版形態が一般庶民にも可能になったのは、戦後、人々の間に教育が普及し表現の自由が認められるようになってからのことです。
それ以降、今日までの自費出版の歴史について、「ひとびとの声が聞こえるー日本自費出版文化賞10年の歩みー」 を参考にしながらまとめてみましょう。
■ 第1期 戦後から60年代後半まで
この時代の印刷技術は、活版印刷かタイプライターで原紙に印字して謄写印刷する孔版タイプ印刷か、昔懐かしいガリ版でした。
この時期に本を自費出版できたのは、資産家や政治家など一部の限られた人たちで、まだ一般庶民が自費出版を行うというところまではいっていません。
しかし、一方で日本各地で文芸サークルや労働組合の機関紙活動がさかんに行われ、国分一太郎の「新しいつづり方教室」、無着成恭の「山びこ学校」や農村の生活記録運動が始まった時期です。
■ 第2期 70年代から自費出版90年後半まで
戦後復興をとげ、さらなる経済成長を続けた日本は、所得倍増、一億総中流といわれる時代に入って、経済的な豊かさを得ます。
一方、経済成長のひずみは、70年代に入ると、乱開発による自然破壊、水俣病などの公害問題、光化学スモッグといった形で顕在化し、戦後復興、高度経済成長の中をひた走ってきた人々が、その狭間で自らの有り様を見つめ直すようになります。
そんな中で、自費出版という形をとって、それまでものをいわなかった庶民が、自分の言葉で自分を語りだすようになりました。
その表われの1つが戦争体験の記録です。あわせて創作・文芸や自分史などが盛んに自費出版されるようになりました。
この時期の運動で忘れてならないのは、橋本義夫さんが提唱して、燎原の火のように広がった「ふだん記」運動です。
橋本さんは、「人はだれでも、それぞれ自分でなければ語れない貴重な体験を持っている。それを書いて記録すること」を人々に勧めたのでした。
印刷技術の面でも活版印刷からオフセット印刷への革新がありました。
この時期の活動で、特筆すべき項目を、「ひとびとの声が聞こえるー日本自費出版文化賞10年の歩みー」から引用しましょう。
◇ 「ある昭和史―自分史の試み」(色川大吉著 中央公論社 75年)出版。自分史という言葉が認知される。
◇ 70年代から「東京大空襲を記録する会」に代表されるように、各地域での戦争体験の記録運動が起こり、これが個人の体験記録と結びつく形で、その多くが自費出版へと発展。この動きは75年(戦後30年)、85年(戦後40年)、95年(戦後50年)という幾つかのピークを経て現在まで続いている。
◇ 70~80年代 地方の時代とも呼ばれ、各地で小出版社が立ち上がる。
◇ 78年 日本発のワープロ発売
◇ 「基本・本の作り方」(サンライズ印刷ー現在のサンライズ出版ー)など、自費出版マニュアル本の発行続く。
◇ マスコミにも自費出版関連記事が多くなる。
◇ 滋賀県知事武村正義が「草の根文庫」を創設し、自費出版への助成制度を設ける(86年頃まで)。
◇ 大阪の(株)新聞印刷の福山琢磨が「自費出版センター」開設(84年)、続いて「自分史メモリーノート」発行、自分史の図書館「ブックギャラリー上六」開設(88年)、「孫たちへの証言シリーズ発行始める。合わせて自分史回覧システム「本の渡り鳥」を開始(89年)。
◇「自費出版情報センター」の吉澤輝夫、自費出版の専門誌「ライブブック!自費出版情報」創刊(サンエイジング84年 5号で廃刊)。
◇ 日本軽印刷工業会(現・社団法人日本グラフィックサービス工業会)「自費出版読本」を発行して、自費出版営業を支援。
◇ ワープロ10万円時代に突入(85年頃)。
◇ 印刷業界に電子組版機が普及し始める。
◇ NHK学園が「自分史講座」開講。自分史セミナーが盛んに開かれる。
◇ 持ち込み原稿を本にする新システム(Aー企画、Bー共同、Cー自費出版)の「日本図書刊行会」を近代文芸社が立ち上げる。
◇ 北九州市が生原稿による「北九州史自分史文学賞」を開設(90年)。
◇ 土橋寿が「日本自分史文学館」を開設し、「日本自分史学会」発足(93年)発足と「私の物語自分史大賞」創設(97年)。
◇ 「自費出版図書館」創設(伊藤晋 94年)(現・NPO法人自費出版ライブラリー)。
◇ 一方、出版界では出版不況が続き、ほとんどの出版社が自費出版をサイドビジネスの感覚ではじめる。
◇ こうした中、共同出版、協力出版、共創出版などという新しいタイプの自費出版ビジネスを、新風社(94年)、文芸社(96年)、碧天舎などが相次いで営業展開(共同出版について→掲載ページ)。
◇ インターネットの発達にともない、無数のホームページやブログが開設され、これがパソコンによるDTP(DeskTopPublishing)などと結びつき、個人での出版を可能にする。
◇ 自費出版ネットワーク(現NPO法人日本自費出版ネットワーク)設立(96年)。日本自費出版文化賞創設(97年)、「日本自費出版フェスティバル」「自費出版アドバイザー認定制度」を創設。
◇ 自費出版専門の書店「PPBS」神田にオープン。
◇ 「自費出版編集者フォーラム」発足(98年)。
◇ 仙台「創栄出版」が「あゆみと図書館」オープン(98年)
※ 以上の記載は、基本的には「日本自費出版文化賞10年の歩みから引用しましたが、一部には省略、修正した項目があることをお断りしておきます。
■ 第3期 混乱の時代
出版不況が続く中で、自費出版に新たな活路を求めて登場した共同出版、協力出版、共創出版という出版形態の、いわゆる「賞賛ビジネス」と呼ばれる手法などに対して社会的批判が巻き起こりました。
また、書店に本を陳列させると約束しながら、現実には並ばないといった事態に対して著者が訴訟を提起するなどして、06年に碧天舎が、08年には新風舎が倒産するにいたりました。
一方、DTPの普及やインターネットの発達で、編集者や第3者の目を通らない無責任な内容の本も市場に出回るようになってきています。この状況には少部数出版システムのオンデマンド出版(→掲載ページ)が拍車をかけている側面もみのがせません。
■ これからの自費出版
近年、このように自費出版をめぐる状況は混乱しています。自費出版に対するマイナスイメージは、人々の自費出版に向けた厳しい視線につながっています。
しかし、現在、自費出版専門業者の中に共同出版を標榜する出版社はないようです。
また、自費出版御三家といわれた上記3社のうち唯一残っている文芸社も、自主規制と自主改革を進めているようです。
これは日本の自費出版会社自身が自浄能力を発揮している証左とみることもできるでしょう。
個人出版を標榜して自費出版界に新たに進出してきた文芸社ルネッサンスのような出版社も現れてきました。
さあ、これから底の見えない出版不況と混乱の中で、自費出版界はどんな活路を見出そうとするのでしょうか。
電子出版の発達など新たな出版形態が進展する中にあって、これから自費出版がどういう方向に進もうとしているのか注視していきたいと思います。
◇ 「自費出版の基礎知識の巻」には次のような記事が載っています
NO.1 はじめに
NO.2 自費出版とは
NO.3 自費出版の魅力
NO.4 日本の自費出版の姿
NO.5 日本の自費出版の歴史 (この上の記事です)
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